ごくごく飲めるハーブティーというと、私はまずホーソンを思う。

初めてハーブのことでイタリアに行ったとき、生垣になったこの植物が、白い花を咲かせているのを見た。
ビアンコスピーノ。イタリア語で、「白い棘」
実際に、枝いっぱいに白い花を咲かせ、その奥には鋭い棘を持っている。
その花に近づくと、甘く、どこか青臭い香りがした。爽やかさよりも重みがあった。どこかに杏や梅を思ったのは、花びらが5枚だからかもしれないし、独特なアルデヒドの香りのせいかもしれない。
サンザシと聞くと、日本では、中国サンザシが思い浮かぶ。
お酒、山査子餅の、あの酸味や甘味とフルーティな香りは、私たちが好きな味だ。
それもあって、初めてホーソンベリーを買って飲んだときは、がっかりした。

たしか、心筋梗塞になった父の希望で取り寄せた。硬くて渋い赤色の乾いた果実にお湯を注いで、何十分も待ってみた。次は煎じてみた。砕こうとしてみたけど、とても固くて難しかった。
オーガニックコスメの取引先に、ホーソンは通常はパウダーやエキスで摂ること、OPC全体をお茶で抽出するのは難しいと聞いて驚いた。循環器の先生にたずねたときも、同じような回答だった。
このことがきっかけで、成分と抽出と、働きについて、深く考え、調べ、教えを請うようになった。だから、ホーソンには感謝している。それ以来、深く長い付き合いになった。
エキスのようにOPCを濃縮することはできなくても、ホーソンの花と葉が好きになった。
カテキンやエピカテキン、フラボノイドやフェノール酸など、熱い湯に溶け出す成分もあるが、それ以上に、毎日飲める、静かなお茶だからだ。

ドライにすると、あの梅や杏のような重く甘い香りはしない。

葉や枝が硬いので、抽出しやすいよう細かいカットの物が多いが、私は、イタリアで見た、生垣から抜き取ったような美しい花と葉の姿形を楽しめるロットを買い付けている。


ゆっくりと花が開くと、まるで水中花のようで、見ているだけで時間があっという間に過ぎてしまう。

汗の止まらない昼間には、少し冷まして、ごくごく飲む。
大雑把にいえば、強い香りも、はっきりした味もしない。渋味も苦味もない。
だけども、確かにそこに気配を感じる。
抽出されるのは、成分だけじゃないことに、改めて気付く。
立ち止まられば見えてくる風景のように。
耳を澄ませば、聞こえてくる小さな声のように。
気づける日もあれば、何も見えない日もある。
ホーソンは、そんな一杯だ。
【植物データ】
ホーソン
学名 Crataegus monogyna
Crataegus laevigata
科名 バラ科
属名 サンザシ属
主産地 ドイツ、イタリア 東ヨーロッパ
使用部位 葉と花のついた枝先(葉・花)
中国サンザシは、Crataegus pinnatifida Crataegus pinnatifida var. major など
ホーソンの名前は、haw=垣根 thorn=棘 に由来
【成分データ】
芳香成分:ベンズアルデヒド、ヘキセナール、スパチュレノール、cis-ピノカンフォンなど
有効成分:
フラボノイド(ビテキシンなど)
プロシアニジン類(オリゴメリックプロシアニジン、プロシアニジンB2、C1など)
オリゴメリックプロシアニジン(OPC)
カテキンやエピカテキンが、数個結合した化合物(重合体)
低重合度のプロシアニジンは浸剤での抽出も可能だが、高重合度のプロアントシアニジンは難しいと考えられる。
重合度によって抽出や溶剤の選択が異なり、熱や酸素で変質が起こりやすいため、製品化の難易度も高い。
【儀礼と信仰】
ホーソンは、生と死の境界の植物の1つだ。
仲間や大切な家族が亡くなることの悲しみ以上に、生と死は共存できないことを、人はどこかで感じているのだろう。生者の場から、死者を切り離し、死者にふさわしい場所へ送り出そうとする。
しかし、それがうまくいかなかったり、何か良くないものがとりついたりすると、生者にとって脅威の存在となる。
その一つが「吸血鬼」だ。東ヨーロッパから世界に知られる「吸血鬼」は、蘇った死人や不死の存在などのアンデット・リビングデッドへの恐れの象徴と考えられている。
実はホーソンは、吸血鬼退治に使われる植物で、吸血鬼退治の方法として、セルビアではホーソで作った杭を打ち込むと言われている。また、亡くなった人が吸血鬼にならぬように、あらかじめ、ホーソンを靴下の中に入れたり、足に打ち込んだりしたと言われている。
そこまで大胆で飛躍した考えでなくとも、亡くなった人を守るために、ホーソンの枝を備えたりする記録もあるようだが、あくまで小さな言い伝えだ。
魔除けになるものには、匂いが強いもの、棘があることが多い。
【今日の飲み方】
浸剤
ドライ ホール 2g
熱湯98℃ 250ml
抽出時間 15分
ホールのまま、姿形がゆっくりと広がる様子を眺めた。
物足りない場合は、細かいカットタイプを使うか煎じる。
カテキンやクロロゲン酸の風味がもう少し出てくる。
煎剤
ドライ カットタイプ 2g
水300ml
水にドライカットを加えて、沸騰するまで火にかける。
沸騰したら弱火で1分加熱し、火を止めて蓋をして15分置く。
石橋志保
CARACAROフィトテラピースクール代表
植物療法講師/ハーブ専門家
植物文化・死生学・ライフデザイン研究家
神戸を拠点に、伝統的なハーブ療法に、現代の成分化学、生化学、分子生物学などのサイエンスの観点を取り入れ、エビデンスベースなハーブ・アロマテラピーを展開。キャリア30年以上のプロ養成スクールを運営・指導。フィトケミカルや植物辞典など植物の科学と文化を幅広く発信。
植物と宗教・民俗、 死生観・ライフデザインをテーマに、講座やワークショップの企画運営、 講演・執筆活動を行う。
幼少から植物栽培、発酵・歴史・文化・宗教・民俗が大好物。修士(人間学)専攻は人間社会学、専門は死生学(災禍の儀礼、祈り、悲嘆ケア・グリーフケア)。神話・宗教・芸術と植物から、人が植物に託した思いを紐解き、祈りや儀礼とともにトランジションをデザインする「ハーベストライフ」を提唱、執筆講演活動中。

