いつの間にか、日本の夏は亜熱帯になったようだ。
膨張した空気に、熱風が吹き抜けて、逃げ場がない。
いよいよ夏が来たのだ。
熱風が吹き抜けるたび、サハラからイタリアへ渡ってくるシロッコを思う。
砂漠から始まり、熱と砂を巻き上げながら、地中海の湿気を連れてくる熱風だ。

イタリアの初夏の、うだるような暑さは、シロッコのせいだという。
だけどもシロッコは、サハラの鉄分豊富な砂を運び、イタリアの赤い土壌「テラロッサ」をつくり、ワインもオリーブも、美味しくなるという。
美味しい野菜やブドウのために、あの暑さは必要ならば、日本はこの暑さに合わせて、どうすればいいのだろう。暑さに強いハーブを思い浮かべていたら、強烈に、ミントティーが飲みたくなった。
せっかくなので、乾いたサハラの北西の国モロッコの、甘いお茶モロッカンミントを作る。

ペパーミントでも、スペアミントでもなく、モロッカンミント/ナナミントを使う。
ペパーミントほどのメントールはなく、スペアミント同様、カルボンが中心で、リモネンが爽やかに香る。


作り方はいくつかあるが、定番は、生葉のミントと「ガンパウダー」と呼ばれる弾丸のように丸めて乾燥させた中国緑茶を煮出し、砂糖をたっぷり溶かし込む。ミント以外のハーブをブレンドすることも多い。
熱いまま飲むのが流儀だが、さすがに暑いので、今日は自分流で作る。
まずはモロッカンミントを摘む。
我が家のモロッカンミントは、暑さと陽射しで固くなり始めて、もう瀕死だ。それを摘むのにも、灼熱のベランダに出なければならないから覚悟がいる。それでも、葉を摘まんだ指先からすっと冷たさが伝わる。その空気が鼻の中に入ると、ゆっくりと涼感が身体に広がっていく。

それを楽しみながら摘まんだミントをしっかり洗う。
たっぷり氷を入れたグラスに、めいっぱい押し込む。
もうそれだけで、周囲の温度が数度下がって避暑地になる。

次に緑茶を用意する。
今日は中国緑茶に砂糖を煮溶かし、ほんのすこし抹茶を入れる。
最後に、ミントの上から流し込む。

中国緑茶に抹茶の渋味と苦味が入ると強すぎるし、グリーンティのような甘い緑茶は苦手だが、キンキンに冷えると味がぼやけてちょうどよい。たっぷり入れた生葉のモロッカンミントは、上品に、ただただ「涼」として駆け抜ける。

暑さにかまけて、冷たい物を飲み過ぎるときは、熱いモロッカンミントのほうがいいのだろう。生葉のミントがないときは、ドライミントを使ってもいい。ドライなら、ぜひペパーミントを使って、大量のメントールに、クロロゲン酸のぎゅっとした渋味を味わいたい。
どうしても、甘い飲み物が苦手なら、砂糖は使わなくてもいいし、ハチミツに変えてもいい。
飲みたいように飲めばいい。
そして、暑いなら暑いなりに。
【植物データ】
モロッカンミント
学名 Mentha spicata var. crispa ‘Moroccan’
異名 Mentha spicata ‘Moroccan’、Mentha spicata ‘Maroc’
科名 シソ科
属名 ハッカ属
原産地 ヨーロッパから中国
ナナミント
学名 Mentha viridis ver.nana
科名 シソ科
属名 ハッカ属
原産地 ヨーロッパから中国
【成分】
香気成分 カルボン、リモネン
ほかに、フラボノイド配糖体、フェノール酸、ロスマリン酸など
どちらも、ペパーミントのような強いメントール感はなく、スペアミント系の清涼な甘さのある香りが特徴。渋味もすくない。
【儀礼・信仰】
モロッコのミントティーのティーセレモニー
もてなしの場でのティーサーブには、日本の茶道と同じように、所作や段取りの決まり事がある。
儀式的にお茶を供する、ティーセレモニーの型
・四本脚の銀トレイにティーポット、その周囲にミント・砂糖・茶葉を入れた器を配する。
・高い位置からグラスへ注ぐ
・最初の一杯をポットに戻す
通過儀礼や家族行事の場面でのモロッカンミントティー
祝いの表明、連帯感を象徴する
ラマダンの断食明けでもモロッカンミントティーを飲む習慣がある。
石橋志保
CARACAROフィトテラピースクール代表
植物療法講師/ハーブ専門家
植物文化・死生学・ライフデザイン研究家
神戸を拠点に、伝統的なハーブ療法に、現代の成分化学、生化学、分子生物学などのサイエンスの観点を取り入れ、エビデンスベースなハーブ・アロマテラピーを展開。キャリア30年以上のプロ養成スクールを運営・指導。フィトケミカルや植物辞典など植物の科学と文化を幅広く発信。
植物と宗教・民俗、 死生観・ライフデザインをテーマに、講座やワークショップの企画運営、 講演・執筆活動を行う。
幼少から植物栽培、発酵・歴史・文化・宗教・民俗が大好物。修士(人間学)専攻は人間社会学、専門は死生学(災禍の儀礼、祈り、悲嘆ケア・グリーフケア)。神話・宗教・芸術と植物から、人が植物に託した思いを紐解き、祈りや儀礼とともにトランジションをデザインする「ハーベストライフ」を提唱、執筆講演活動中。


