CARA-CAROでは、どの講座にも登場するペパーミントですが、ミント属はたくさんの種類がありますね。
いろいろなミントの栽培や精油を楽しまれている方が多いので、時間が許す限り近似種についてもご紹介しています。
先日、ペニーロイヤルミントについてのご質問をいただきましたので、今日はブログで取りあげたいと思います。
ペニーロイヤルミント
学名 Mentha pulegium
メンタ・プレギウム
和名 メグサハッカ
成分 ケトン類(メントン、プレゴン、イソプレゴンなど) オキサイド類(カリオフィレンオキサイドなど)
多年草
草丈15~30cm
小さな卵型の葉と、小さな輪散花序が特徴
ペニーロイヤルの名前は、硬貨のペニーのように葉が丸く小さいことから。
横に広がるように伸びるので、グランドカバーに最適で、踏みつけにも強いので「香る道」や「香る庭」に使われます。
学名の pulegiumは ラテン語でノミ(pulex) からも分かるように、乾燥ハーブはノミよけハーブとして利用されます。
近年は、イネを食べるホソハリカメムシへの忌避効果なども有望視されています。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kapps/46/0/46_0_75/_article/-char/ja/
精油はケトン類が多いため、神経毒性などに注意する必要があります。
ハーブも同様で、一般向けの講座では飲まないようにお伝えしています。
しかし毒草扱いでもありませんし、イギリスでは食用することもあるようです。
よく知られるのはイギリスの代表的な料理「プディング」です。
プディングといえば、日本の卵たっぷりの甘いデザート「カスタード・プディング」を思い浮かべますが、イギリスのそれは全く印象が違います。
イギリスや欧州の「プディング」は、様々なものを混ぜて、味付けして、煮る・蒸す・焼くなどして固めた物です。狩猟が盛んな国では、保存食として、動物の腸に肉を詰めたソーセージを作りますが、シーズンオフには腸が手に入らないため、動物の内臓や脂肪などを混ぜて固めたことが始まりのようです。
私が初めて、この英国の「プディング」を知ったのは、アガサ・クリスティーの『クリスマス・プディングの冒険』でした。
名探偵ポアロは、あるお屋敷のクリスマス・ディナーに招待されますが、そこで振る舞われたプディングを食べた客の大佐が、中に入ってた赤いガラスのかけらをのどに詰めて、窒息死してしまいます。その赤いかけらをヒントに、名探偵ポアロの推理が始まります。
これを読んだ時は、まだ英国のプディングを知らなかったので「クリスマスにプディングが振る舞われる?」「プディングにガラスのかけらが入っている?」と、とても混乱したのを覚えています。
まさか連続殺人のスタートがクリスマス・プディングに仕込まれたガラスのかけらなんて!と、この時のプディングが強烈に残りました。
この作品は短編集なのですが、このほかに収録されている『スペイン櫃の秘密』『負け犬』、そして英国のブラックベリーパイが登場する『二十四羽の黒つぐみ』も大好きな話です。
何度も何度も読むうちに「いつかクリスマス・プディングやブラックベリーパイを食べてみたい!」と思うようになりました。
時が過ぎ、神戸のアイリッシュバーに行ったときに「サマー・プディング」や「ブラック・プディング」、「ブラックベリーパイ」を見つけて食べてみましたが、やはり英国!ベルギー人のポアロの味覚もなかなかですが、そんな彼がいつもブツブツ言っているのも納得の味でした。
話がだいぶズレましたが、このプディングに、特にちょうど私が食べてしまった「サマー・プディング」や「ブラック・プディング」に、実はペニーロイヤルミントが使われるそうです。
サマー・プディングは、食パンの中にベリーのフィリングを詰めて、重しを冷やし固めたもので、ベリーのフィリングにペニーロイヤルミントが使われています。爽やかですが、ペニーロイヤルミントのケトン類のアクセントがなかなかです。
ブラック・プディングは、別名ブラッド・ソーセージ。豚の血に豚の脂を混ぜて、ペニーロイヤルミントはじめハーブを数種類入れてニンニクを効かせ、オートミールなど穀物で固めた物を腸詰めしています。朝食用と聞いて震え上がりました。
私はパブで、伝統菓子と伝統食と紹介されましたが、いまもよく召し上がられるのでしょうか?
ペニーロイヤルミントへの1つ目のご質問 「食用に不向きとのことですが、なぜですか?」の答えをまとめるなら、
「ケトン類が多く含まれることから、むやみな食用には不向きだとは思います。特に高血圧、てんかん発作などがある方、交感神経優位を避けたい方(過緊張とか)。しかし、英国では食べる習慣もある」
という答えになるでしょうか。
体が許して機会があれば、ぜひ英国の伝統菓子と伝統朝食にチャレンジしてみて下さい!
さてもう1つのご質問は「グランドカバーと言われてますが匍匐性ですか?お家のはまっすぐ上に伸びているのですが」です。
ペニーロイヤルミントはグランドカバーといっても、横に広がるように伸びる性質があることと、短く刈り込んで育てることもできるのですが、放置すれば30cmくらいは伸びます。
ピンと立つ性質があって、ペニーロイヤルミントと呼ばれるものには近似種のハーツペニーロイヤルミントもあります。
ハーツペニーロイヤルミント
学名 Menta cervina メンタ・ケルウィナ
別名 シカミント
成分 ケトン類(プレゴン イソメントンなど)モノテルペンアルコール類(l-メントールなど)
多年草
草丈15~30cm
槍のように尖った細い葉と輪生花序が特徴
湿地や水中でも生息できる湿性植物 湖沼などを好む
準絶滅危惧種
名前の由来は、苞葉が鹿の角に似ていることから「鹿」にちなむものが多い
cervina ラテン語で「鹿」
Hirschpolen ドイツ語で Hirsch 「鹿」Polen「ペニーロイヤルミント」
ハーツ Hart’s 英語でHart「雄鹿」
ペニーロイヤルミントよりもややマイルドな香りですが、ケトン類がしっかり香ります。
私は水耕栽培やベランダビオトープが好きなので、このハーツペニーロイヤルミントを植えています。
比較的丈夫と言われていますが、なかなか上手く増やせません。特に冬は、水中で越冬するそうなのですが、ついつい水を切らしてしまって、暖かくなっても芽吹く様子がなく…毎年肩を落としています。
植物と人間の歴史は長いので、1つの植物から、近似種はもちろん、名前の由来や宗教文化、民俗、料理、行事や祭式、音楽や文学と、果てしなく話題がつながりますね!
幼き日や若かりし頃の思い出に触れることができるのも、講座でいただくご質問のおかげです。
植物が好きな方はご質問にお答えすると、またそこから数珠つなぎにどんどんと思い出されることやヒラメキがあり、お互いに話が終わりませんが、それこそが講師の楽しみでもあります!
今日も明日も、声をからしながら楽しんでいきます。
石橋志保